時は狂いなく、そこにいる。
手を伸ばしても掴むことができない。だけど時は、いる。
長針をぐるぐると逆回転させて、僕を惑わす。
「狂ってる」
僕は独り言ちた。
油断をすれば引きずり込まれる。
自分の意志で進まなければ飲まれてしまう。
濁った水のように循環が出来なくなって、朽ちていくことになる。一刻も油断は出来ない。
それなのに。
君は狂いなく、先にいる。
僕だけを置いて。
君は時と添い、進んでいる。蝶のようにひらひらと舞い、飛んでいく。僕は手を伸ばす。
……もう、届かない。
秒針は、残酷に僕を切り刻む。
赤い光りは眩し過ぎたんだ。
光は遠く、
尊く。
僕を置き去りにした。