2019/09/22

『最期の記』


時は狂いなく、そこにいる。
手を伸ばしても掴むことができない。


だけど時は、いる。
長針をぐるぐると逆回転させて、僕を惑わす。


「狂ってる」
僕は独り言ちた。


油断をすれば引きずり込まれる。
自分の意志で進まなければ飲まれてしまう。
濁った水のように循環が出来なくなって、朽ちていくことになる。一刻も油断は出来ない。


それなのに。


君は狂いなく、先にいる。

僕だけを置いて。

君は時と添い、進んでいる。蝶のようにひらひらと舞い、飛んでいく。僕は手を伸ばす。

 ……もう、届かない。

 秒針は、残酷に僕を切り刻む。

 赤い光りは眩し過ぎたんだ。



光は遠く、
尊く。
僕を置き去りにした。