2014/08/09

人喰うバク


眠るのが嫌い。
怖い夢ばかり見るから。
バクは、夢なんか食わない。
怖い夢を見させて、僕を喰う。
夢に怖がる僕を楽しんでいる。

子どものころ、僕は見たんだ。
暗闇の中にバクがいた。
黒い体で、目を光らせたバクが、ドアの出入り口を塞いで僕を見ていた。
体の周りも目と同じ色で光っていた。
僕は怖くて声をあげて泣いた。隣で寝ていた母親と姉が起きて、僕はバクの説明をしたけれど、そんなものいないと笑われた。
おそるおそる確かめると、暗闇だけが僕らを見ていた。



僕はどれくらい、ちっぽけなおとなになっただろうか。
今日も僕は、バクの餌になる。

2014/08/04

宛無き旅(受信編)


どんよりとした輪郭を、冴えない頭でぼうっと見つめる。

 コンクリートの海にいた。
 どんなにもがいても進めない。
 もうすぐ私はカタマリになるのだ。

カタマリ。

手の中の感触を確かめると携帯電話だった。
夢と現実のハザマからようやく抜け出る。
カタマリはメールを受信していた。

開くと見慣れない文字が羅列している。

 納屋へ鉈良き日な赤
 棚か中は荷や他
 ゆわひ気圧に湯張る皿
 やなやらへなき矢を高菜は、由良は抜きと床や他
 塚な秋菜由な夜話な
 奈良原や和や中

件名には「文豪」と書かれていた。
そっと消去した。

私は現実の中で迷子なのだ。

2014/08/03

宛無き旅(送信編)


 ふと目が覚めて、手探りで携帯電話を掴む。
 時間は午前三時九分。
 視界を奪うほどの眩しさに、一瞬目を細める。

 小説を書こうとメール作成を開いた。とりとめのない言葉や、夢で見たことなど何かしら残すのが癖になっている。

 気付くと、ただ漠然と白い画面を見つめていた。
 何も出てこないのだ…

 出鱈目にキーを押して変換した。


 あてずっぽうな文字で画面を埋めると、歴代の文豪気取りで満足して目を瞑る。

 私は再び夢の中を彷徨うのだ。