2022/09/29

【嘔 吐 吐 書】


   ちぎれた音を聴いた
   何もかも吐き続けて
   大切なものまでをも
   奪われていくような

   胃液の底に沈むのは
   ちぎれた音、でした


   葡萄を摘んだときの
   音にも似たかすかな
   悲鳴が聴こえました


   咀嚼した実はやがて
   空になった私の中に
   束の間の幸を与えて
   生にしがみつく私の
   しぶとさを褒め称え

   まだ生きている事の
   過ちを嘆くのでした

2022/09/17

幻想は赤の中で


いつかふたりで行きたかった

約束したあの場所に



もう二度と温もりを感じることはできなくて

ひとりぼっちの私だけが色のない世界で

色を持たずにここにいる



降り始めの雨が花を赤く染めて

おそろいのブレスレットを赤く濡らした

瞬く警戒音が通り過ぎる




 いつかふたりで生きることができるのなら

 その手を放すことはないだろう


幻想を雨の中に──




赤く染まりゆく鼓動は引き千切られていく。
壊せばいい。気が済むまで。涙が枯れ果てるまで。私の哀しみは歌う。
欲しいものなんてもうなにもない。
なにを願ったっけ。
痛みに苛まれながら壊れるのだ。

今、何を願おう。


…私が存在しなかった世界を創造することだ。