2023/12/27

夕さりのオイル


どんなに鮮やかな色を魅せようとも
影は滲みていく
使い古しのエンジンこぼしたみたいに



なんの感情も無く
私はこの町を発つのだ


胎児のころと同じ
なんの感情も無く子宮の壁を見つめ
ただ通り過ぎるだけ


どんな人生を新しい町で歩もうとも
時はオイルのように迫り
劣化した私を回収するのだろう

2023/12/18

葬る残片


いつまでも残る
鳴り響く音階
色褪せた記憶
あの時言えなかったことを
時経る今なら
確かな言葉で伝えられるのに

蝶の軌跡が壊れゆく
描いた空には
羽の欠片さえも見つからないほどに
濃い碧を重ねる
時経る今なら
確かな別れを告げられるのに

2023/12/12

三時のコンペイトウ


コンペイトウを散りばめて
名もない星座を描く

ある星は粗末な絵を
ある星では雑音止まず
ある星は罅割れ
ある星の傷は膿む
ある星は無常を吐露し
ある星は雪の物語を綴る

それらは、一度も輝くことなく流れる


やけに甘い粒が
やけに虚しく舌を這う

コンペイトウを飲み込んで
何もない空の下で

2023/12/10

ノスタル嫋々


揺れるカーテンの向こう、
垣間見えた空には雲ひとつなく、
まるで私の思い出箱のようにからりとしていた

味のしなくなったガムを銀紙に包むころには、
空の色さえ、忘れている

2023/12/01

枯れゆく花の調べ

そこには死しかないと思っていた。

痛みも感情もすべて消え失せ、

なにも無いことが死なのだと。


なにもかも無くなりたいと。

今の私はそうであっても。


花は枯れようとしていた。

それなのに、強く、息吹いていた。

意味のある死を以って。



私を浚う雨の響きは、

無意味な羅列に似て。

2023/11/10

濘(どろ)


赤が近づくにつれ私は赤に溶けていく
焦がれた光景は
いつでも私の中にいた
いつだって私は
私でなくなることを望んでいたのだ
きっとあの羊水に浸されたときから

赤に泥濘み、私は赤となる
焦がれる光景を
いま、私は見ている

2023/09/01

空の青さも知らぬままに


手を繋いでいても寂しかったのは
その冷たさのせいじゃなくて

そばにいても不安だったのは
そつない返事のせいじゃなくて




空の青さも知らないまま

蜘蛛の吐き出す糸に
絡まり続けた私の末路を

解けぬ心の死を



時だけが見ていた

2023/08/07

チョーク


煩悩が渦巻く中心で

見上げれば

大きな手がすべてをなぎ払おうとしていた



息苦しいこの町で

一生を終えることの虚しさも

人を愛することの想いも



すべて

2023/06/14

疑片ノ完(ウタカタの缶)


ひたすらに痛みと吐き気に耐え
ひたむきに時だけを見つめている
目の奥で喚いてる、
闇を搔き毟るほどの強さで。


時を刻む音なのか

命を削る音なのか


…生きるという罰を

苦しむために与えられている


ひたすらにもう二度と「無い」と
いたずらでも生まれ変わることはもう無いと
心の底から願うんだ、
陽に搔き消されそうな弱さで。

2023/05/31

時刻む


インクの出ないペンをそっと置いた

誰が読むというのだろう
誰が知るというのだろう

ひどく孤独な作業を繰り返している
生きることにも似ている



宛先の無い手紙は届かぬまま
私と一緒に焼かれてしまうのでしょう


時を追い
君を想い
青が霞む

2023/05/18

雨と無価値




ただ文字を重ねているだけ。

乾いた吐物があるだけ。


何れ肉体が消え去るとき、すべてが消滅するのでしょう。

深い夜の末、雪が消えゆくように。



産声をあげたくなかったのです。私は。



世界の片隅で価値ない者が価値ない物を嘔吐する。

今ここで去り、蔑むべきです。あなたは。私を。

2023/04/19

あいいろのおと



どれくらい、見離されたのかわからない。

それくらい遠くにいた。

したたかに夜を描いて、あいいろの空をゆうゆうと泳いでいる。



孤独に縁取られた月が、孤独の影を落とした。

絶望の隅で僕は沈む。




どれくらい経ったのかわからない。

あいいろの背に僕はいた。

夜が鳴いた。

2023/01/19

囚われbeads


悲しみの色が弾けて

壊れかけた世界の片隅で

埃まみれの花弁が堕ちていく

粉々に散りゆくかすかな赤



悲しい色を繋いで

囚われの世界を構築して

苦し紛れの詭弁を飾りつける

孤独を灯すささやかな光を